2026/05/28
「作れる基盤」から「使われるプラットフォーム」へ。クラウドネイティブ会議で語られたCNAP×Backstageの実践
クラウドネイティブ会議にて、当社エンジニアがソフトバンク株式会社と共同登壇しました
株式会社エーピーコミュニケーションズ(以下、当社)は、名古屋で開催された「クラウドネイティブ会議」において、2026年5月14日にソフトバンク株式会社の佐藤良太氏と共同登壇しました。
クラウドネイティブ会議は、CloudNative Days、Platform Engineering Kaigi、SRE Kaigiの3つのイベントが合同で開催された、クラウドネイティブ、Platform Engineering、SREの知見が集まるエンジニアカンファレンスです。公式サイトでは、名古屋・中日ホールで開催される1,000人規模のエンジニアカンファレンスとして紹介されています。
今回のセッションタイトルは、「巨大組織の認知負荷をどう下げるか? ソフトバンクが描くCNAP×Backstageによるクラウドネイティブの新時代」です。
当社からは、ACS事業部 GTM室 室長の土居幸平が登壇し、ソフトバンク株式会社 AI・クラウドプラットフォーム本部の佐藤氏とともに、クラウドネイティブ時代における開発者体験、Platform Engineering、開発者ポータルの活用について紹介しました。


Backstageへの関心の高さにみる、日本の開発ステージの進化
セッション冒頭では、土居から来場者に向けて「Backstageを知っている方」「触ったことがある方」への問いかけがありました。
会場のあちこちから次々と手が挙がりました。数年前までは、日本におけるBackstageの認知度は決して高くなく、どこか「海外の先進的なテック企業の事例」という遠い存在のように語られることが多かった技術です。しかし、今回のクラウドネイティブ会議という熱量の高い場において、これほど多くの手が挙がった光景は、日本の開発シーンにおける確かな変化を物語る非常に象徴的なシーンでした。
Backstageは、元々Spotifyが自社のサービス開発における課題を解決するために開発し、その後OSSとしてCNCFに寄贈されたInternal Developer Portal(IDP)です 。サービスカタログや技術ドキュメントの集約、テンプレートによる環境構築の標準化など、開発者が迷わず情報にアクセスできる入口として世界中で活用されています。
これまでは「遠い国の優れたツール」だったものが、日本でも実践フェーズに入り、さらにはその先にある「AIの実装」までを見据えた議論ができる環境が整いつつあることを肌で実感させられる瞬間でした。

クラウドネイティブ時代に高まる「迷いのコスト」と、共通基盤「CNAP」の挑戦
続いてマイクを握ったソフトバンク株式会社の佐藤氏から、現代の開発者が直面している深刻な「認知負荷」の実態を切り出しました。
クラウド、コンテナ、Kubernetes、CI/CD……。開発者が扱う技術の選択肢は爆発的に増え続けています。しかし、技術が便利になる一方で、「どの技術を選ぶべきか」「必要な情報はどこにあるのか」「どの手順で進めればよいのか」という“迷い”もまた、膨れ上がっているのが現状です。
佐藤氏は、このような「探す・調べる・確認する」ために費やされる見えない負荷を、開発者体験を左右する重要な要素として捉え、クラウドネイティブ時代には認知負荷の低減が急務であると強い問題意識を投げかけました。

そして、この課題に対するソフトバンク株式会社からの解決策として紹介されたのが、自社開発を進める共通基盤「クラウドネイティブ・アプリケーションプラットフォーム(CNAP)」です。
CNAPは、GitOpsによってセルフサービス化を実現する強力な共通基盤です。
開発者がGitにインフラ構成を反映するだけで、クラウド環境が自動的に構築され、アプリケーション開発に必要な環境をよりスムーズに利用できる仕組みを作りました。
佐藤氏が挙げたCNAPのコアとなる特徴は以下の3点です。
- GitOpsによる自動化
- ローコードパッケージ化
- AWS、Azure、Google Cloudに対応するマルチクラウド対応
インフラやKubernetesの複雑さをすべて基盤側で吸収し、開発者がインフラの細かな違いに迷うことなく、アプリケーション開発そのものに集中できる状態を提供する。まさに、開発者にとって理想的な「土台」が完成したかのように見えました。
しかし、佐藤氏はここで一つの“リアルな壁”を明かします。
GitOpsは極めて強力な仕組みですが、Git操作に慣れていないメンバーにとっては、それが新たなハードルになる場合があります。また、社内の申請業務や各種手続きの導線がバラバラで分かりにくいままであれば、開発者は「どこから何をすればよいのか」で結局迷子になってしまうのです。
手動対応工数を「約85%削減」:Backstageによる「見える化」と「自動化」
具体的に、ソフトバンクはBackstageをどのように活用しているのか。佐藤氏からは「見える化」と「自動化」の2つの観点が紹介されました。
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「見える化」による情報の集約
バラバラに点在していたサービス情報、チーム構成、技術ドキュメントなどの情報をBackstage上に集約し、開発者が「ここを見ればすべてがわかる」と、必要な情報へすぐにアクセスできる状態を作り出しました。
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「自動化」によるセルフサービス化
「自動化」では、アカウント申請、権限申請、リソース申請など、部門内で頻繁に発生する定型的な手続きを、Backstageからセルフサービスで実行する仕組みが紹介されました。
具体例として紹介された「Microsoft Azureアカウント申請の自動化」は、セッション後のAsk the Speakerや当社の展示ブースでも話題となることが多く、関心を集めていました。従来は、申請内容の転記、手動実行、ステータス更新、個別通知など、すべての工程を人力で対応していたといいます。しかしBackstageの導入後、申請から承認、権限付与、通知に至るまでを標準化されたフローへと刷新。その結果、手動対応工数を約85%削減するという大きな成果が得られたとのことです。
佐藤氏は「これは単なる数字上の工数削減ではない。開発者と運用者の双方にとって、不毛な定型業務に伴う『認知負荷』を徹底的に引き下げるための取り組みである」とPlatform Engineeringの本質を強調していました。
成功の裏にあるリアル:ポータルは「作って終わり」ではない
セッションは成功譚だけで終わりません。佐藤氏は、Backstageを1年間泥臭く運用する中で見えてきた「次なる課題」についても包み隠さず共有しました。
- ライフサイクルを含めたアカウント設計
誰がいつ組織に参加し、いつ離脱し、どの権限を持つべきかという動的な管理の難しさ。 - ドキュメントの分散と連携
各チームが独自に運用している既存のドキュメントサイトと、どうシームレスに連携させていくかという問題。 - 開発リソースの判断
コミュニティの公開Pluginで対応するのか、それともCustom開発に踏み切るべきかというトレードオフ。
「Backstageは、導入すれば魔法のようにすべてが解決するツールではない。組織のフェーズや文化に合わせて、継続的に『育てていく』ことこそが重要なのだ」
実運用を乗り越えてきたからこそ重みを持つこのメッセージは、これからInternal Developer Portalの導入を検討する多くの企業にとって、何よりの現実的な道標となるはずです。
当社からは、Agentic DevOps時代の開発者ポータルの未来像を紹介
セッション後半では、当社の土居より、さらに一歩先を見据えた「AI時代における開発者ポータルの未来像」が提示されました。
現在、GitHub CopilotやClaude CodeをはじめとしたAIコーディングツールの普及により、要件整理やコード生成、テストケース作成などの現場でAI活用が急速に進んでいます。
その先にある未来として「Agentic DevOps」という世界観を紹介しました。
Agentic DevOpsの世界では、AIエージェントがコード生成からリファクタリング、テスト自動化、IaCの実行、コードレビュー、PR作成、そしてリリースに至るまでの一連のDevOpsサイクルを自律的に担います。人間(開発者)は、より高次元な「設計思想」や「ビジネス価値の創造」に集中できるようになるという世界です。
しかし、AIツールをただ導入するだけでは、組織全体の生産性は上がりません。現在多くの開発組織が抱える生産性のパラドックスについて言及し、AIを組織の力として真にスケールさせるためには、「組織構造」「開発プロセス」「アーキテクチャ」を整え、「AIが適切かつ安全に動けるワークフロー」を設計し、AI活用を阻害しないようにすることが不可欠であると強調しました。

AI時代におけるBackstageの3つの活用例
Backstageは、AI時代の開発組織においても重要なキーファクターになる。効果的なユースケースとBackstageが提供する機能を組み合わせて使うことが重要だと述べた上で、土居は次の3つの活用シナリオを紹介しました。
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持続可能な開発者育成と「AI Ready」な環境づくり
社内トレーニングやハンズオンは有効な一方で、コンテンツの陳腐化や有識者への依存が常に課題となります。そこでBackstageの「TechDocs」を用いて、セルフサービスを前提としたオンボードスタイルへの転換を図り、ドキュメントをDocument as Codeで管理し、GitHubのIssueやDiscussionsと連動させて継続的にアップデートする仕組みを紹介。
さらに「Software Template」を活用し、アカウント払い出しや開発環境、CI/CD、さらにはAIエージェント向けのプロンプト(instruction)までをもセットにした「AI Ready」な開発スタートパスを開発者に提供する「実践」へのシームレスな導線も重要であると言及。
「学習 → 実践 → フィードバック → 更新」を循環させ継続性を持たせる一連のサイクルをBackstageをハブに据えることにより実現できると提示しました。
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AIエージェントに必要なコンテキストとガードレールの提供
昨今のAIによるテクノロジーの進化により、Platform EngineeringにおいてPlatformチームが提供するゴールデンパスにも変化が生じている旨を冒頭に説明しました。
AIが開発プロセスに深く介入するほど、「組織固有のルールや設計思想」をAIにいかに正しく理解させるかが勝負になる。
Platformチームは、開発者のAIコーディングエージェントが「組織のルールを逸脱することなく、安全に自律開発を進められる」環境を作ることができるよう、BackstageのSoftware Templateを通じて、組織のプラットフォームに必要な設計方針、開発ルール、ワークフローサンプル、Policy設定、Agent向けのinstructionなどをゴールデンパスとしてまとめて提供することが重要であると説明しました。
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開発アセットのカタログ化と組織的資産化
AIによって開発速度が爆発的に向上する半面、「誰が何を作ったのか」「システム同士の依存関係はどうなっているのか」が見えなくなるリスク(ブラックボックス化)が懸念されます。
ここで生きるのが、Backstageの「Software Catalog」です。サービス名や所有者、依存関係、API仕様などを catalog-info.yaml として一元管理します。この情報は、人間にとっては「開発資産の可視化」、AIにとっては「システムを正しく理解するための重要なコンテキスト」となります。
Backstageに開発組織のアセットやコンテキストを集約することが、中長期的な開発組織のAI活用を下支えする未来を説明しました。
「使われるプラットフォーム」のその先へ
今回のセッションでは、ソフトバンク株式会社が実践するCNAP×Backstageによる「認知負荷低減」のリアルな歩みと、当社が描く「AI時代の開発者ポータル」の未来がシンクロする時間となりました。
クラウドネイティブ化が進み、扱う技術や情報が増大し続ける現代。さらにAIの登場によって、開発のスピードや前提そのものが激変しています。
その中で、個々の開発者が「情報を探し、手続きに迷い、環境構築に追われる」という負荷を、いかに組織として、プラットフォームとして取り除いていけるか。Platform Engineeringの実践こそが、開発者が再び「価値創造」に100%集中するための唯一の鍵であるという強いメッセージを残し、セッションは幕を閉じました。

登壇者コメント

株式会社エーピーコミュニケーションズ ACS事業部 GTM室長 土居幸平
今回のセッションでは、ソフトバンク様がCNAPとBackstageを活用しながら、巨大組織における認知負荷の低減に取り組まれている素晴らしい実例をご紹介いただきました。
AI活用が加速するこれからの開発現場では、人間の開発者だけでなく、AIエージェントに対しても組織のコンテキストやガードレールを適切に提供することが必須となります。
当社では数年前からBackstage関連の支援をしておりますが、当時のBackstageの認知はお世辞にも高いと言えたものではありませんでした。ですが、今回のイベントではセッション後の皆様との白熱したディスカッション、他社様でもBackstage関連セッションが複数登壇されるなど、Backstageへの期待値が高まっているのを肌で感じることができました。
Backstageを始めとした開発者ポータルは、今後の開発組織における『知の基盤』として、センターピンになると確信しています。当社としても、Backstageや自社サービスであるPlaTTの知見を活かし、開発組織が持続的に『使えるプラットフォーム』づくりを全力で支援していきたいと思います。
本記事掲載にあたって、ソフトバンク株式会社 エンジニア 佐藤氏からもコメントをいただきました。

ソフトバンク株式会社 AI・クラウドプラットフォーム本部 佐藤良太氏
このたびは、クラウドネイティブ会議という素晴らしい登壇の機会をいただき、誠にありがとうございました。
私たちソフトバンクにとっても、クラウドネイティブ・アプリケーションプラットフォーム(CNAP)とBackstageを活用したPlatform Engineeringの取り組みを発信し、多くの皆さまと議論できたことは非常に貴重な経験となりました。
当日の各社ブースやセッション、Ask the Speaker、懇親会での交流などを通じて、Backstageへの関心が国内でも大きく高まっていることを実感しました。
まさに「”Backstageの需要”は、終わらねぇ!!」と表現したくなるほど、熱量のある二日間でした。
また、Platform Engineeringが、単なる開発基盤の整備から、開発者体験や組織全体の生産性を支える取り組みへと進化していることも肌で感じました。私たちは、CNAPによる標準化された実行基盤と、Backstageによる情報・業務導線の一元化を組み合わせることで、開発者がより迷わず、より価値創造に集中できる環境をつくれると考えています。
今後もエーピーコミュニケーションズ様とともに、Platform EngineeringのNext Stageへ向けて挑戦を続けてまいります。





