2025/12/22
【対談】「クライアントワークは成長できない」って本当?グッドパッチ × APCが語る成長フィールドとしてのリアル
単なる下請け作業、自社とのつながりが薄い……
マイナスイメージが先行しがちなクライアントワークですが、実は自分自身を大きく成長させられるフィールドでもあります。
今回は、クライアントワークの最前線でキャリアを築いてきた3名による、本音のクロストークをお届けします。
登場するのは、株式会社グッドパッチ(以下、グッドパッチ) 執行役員の石井さん、株式会社エーピーコミュニケーションズ(以下、APC) 部長の高橋さん、そしてグループマネージャーの平林さん。
クライアントワークの知られざる魅力とは?
そこで描けるリアルなキャリアパスとは?
キャリアの可能性を広げたい方に向けて、クライアントワークのリアルをお伝えします。
登壇者プロフィール
石井 克尚(いしい かつひさ)株式会社グッドパッチ執行役員
プログラマー、事業会社のエンジニアを経て、2014年にグッドパッチへ入社。iOSデベロッパー、UIデザイナー、PdM、新規事業担当など幅広い職域を経験し、2024年にゼネラルマネージャー、2025年6月より現職。現在はDesign DivisionおよびGoodpatch Anywhere Division(デザイン領域)を管掌する。
高橋 裕行(たかはし ひろゆき)株式会社エーピーコミュニケーションズ iTOC事業部 EDT部 部長
プログラマーを経て、2006年にエーピーコミュニケーションズ入社。インフラエンジニアとして、クライアントワーク形態でのプロバイダーネットワーク基盤業務に従事。現在は管理職として、現場の統括およびマネジメントを担う。
平林 雄太(ひらばやし ゆうた)株式会社エーピーコミュニケーションズ iTOC事業部 EDT部 GM
前職はピザ屋の店長という異色の経歴を持つ。2011年、未経験でインフラ業界へ転職。ネットワーク監視・保守運用のクライアントワーク現場で経験を積み、現在はグループマネージャーとして複数プロジェクトを管掌する傍ら、現場エンジニアとしても活躍中。
残業、下請け、言われたまま。「悪いイメージ」の正体
── まずは前提として、皆さんが考える「クライアントワーク」の定義から教えてください。
高橋(APC):言葉の定義としては「システムを開発したい」「デザインを制作したい」といった企業からの依頼を受け、その意向に沿った製品やサービスを提供する仕事を指します。
ただ、仕事の「目的」という観点で言えば、私は「クライアント企業の課題を解決すること」だと捉えています。単なる作業者ではなく、その分野における「外部の専門家」として、クライアントと一緒に課題に向き合う。これこそがクライアントワークの本質ではないでしょうか。
── 一方で、世間一般的な「クライアントワークのイメージ」についてはどう感じていますか?
石井(グッドパッチ):包み隠さずに言うと、かなりネガティブな印象を持たれていることが多いですよね。「毎日残業していそう」「何日も徹夜が続く」「クライアントに言われたものをただ作るだけ」……。そういった、「きつい下請け仕事」というイメージが先行しているのが現実だと思います。
高橋(APC):でも、構造だけで見れば、高い専門性を持って企業の課題を解決する「コンサルタント」と、非常に近いモデルなんです。不思議なことに、「コンサルタント」に対して悪いイメージを持つ人はそこまで多くないですよね。
石井(グッドパッチ):そうですよね。
高橋(APC):おそらく、マイナスイメージの根源は、クライアントワークという仕事そのものではなく、業界構造にあるのだと思います。
例えば、何段階にもわたって業務を再委託する「多重下請け」や、理不尽な条件を強いられる「下請けいじめ」といった問題です。
もちろん、そうした構造自体は是正されるべき課題です。しかし、だからといって「クライアントワークそのものが悪」と決めつけてしまうのは少し違うのではないか?というのが私の考えです。
石井(グッドパッチ):おっしゃる通りですね。一部のネガティブな側面が拡大解釈されてしまっている部分は大きいと思います。それに加えて、Web上などでも「クライアントワークは楽しい!」「こんなにやりがいがある」というポジティブな発信があまり多くない。そのせいで、なかなか良いイメージを持ちにくいという側面もあるのかもしれません。
変数が激しく変わる。だから、最強の「再現性」が身につく
── 厳しい意見として、「クライアントワークでは成長しにくい」という声もあります。この点について、皆さんはどうお考えですか?
石井(グッドパッチ):確かにクライアントから「これを作ってください」と指示されて、「はい、作りました」と返すだけ、そのラリーを繰り返しているだけでは、成長を実感するのは難しいかもしれません。
しかし私は、クライアントワークこそ「どんな環境でも成果を出せる、再現性を持った人材」に成長できるフィールドだと考えています。
事業会社と違い、クライアントワークではプロジェクトごとに企業も、組織も、文化も異なります。場合によっては、自社側のチームメンバーさえ変わることもある。つまり、「自分を取り巻く変数」が常に激しく変化するという特徴があるんです。
── 「変数」が変わる中で成果を出し続けることで、力が磨かれると。
石井(グッドパッチ):その通りです。多様な環境下で、クライアントの事業成長にコミットし続けることで、本質的な課題解決力が鍛えられます。
私たちグッドパッチでは、最初に「パートナーとしてご一緒したい」とお伝えし、社外の人間でありながらも、内部の人間のように事業を考え抜く「伴走」のスタイルを大切にしています。時には、クライアントが当初描いていた計画や戦略を、「事業成長のためにはこちらのほうが良い」と覆すような提案をすることさえあります。
指示待ちではなく、パートナーとして主体的に関わる。これが、クライアントワークだからこそ実現できる「成長のあり方」ではないでしょうか。
平林(APC):私も同感です。プロジェクトごとに経験できる内容が違うので、毎回新鮮な学びがあります。
そういった環境で成長するために私が意識しているのは、「インプット以上に、アウトプットする」ことです。新しい知識を単に「経験した」で終わらせず、次の現場では意識して使ってみる。さらにそれをドキュメント化してナレッジにしたり、勉強会を開いたりして周囲に共有する。そうすることで、自分自身の理解も深まります。
── 現場で得た知見を、次の現場やチームに還元していくわけですね。
平林(APC):ええ。そうやって異なる現場を経験したメンバーが集まると、「前の現場ではこんな手法をとっていたよ」「それ、こっちの課題でも使えるね」といった化学反応が起きるんです。
一人ひとりが持ち寄った知見が混ざり合い、エンジニア同士で高め合っていける。この「集合知」のような環境があるのも、クライアントワークのすごいところだと思います。
「火事場」と「大失敗」が育ててくれた。技術の先にある“問題解決力”への気づき
── 皆さんのクライアントワークのキャリアを選んだ「きっかけ」は何だったのでしょうか?
石井(グッドパッチ):実は、「クライアントワークがやりたい!」と意気込んで仕事を探していたわけではないんです。もともとUI/UXデザインの領域が好きで、「優秀なデザイナーと一緒に働きたい」「良いものを作りたい」という軸で会社を探していて、たまたま出会ったのがグッドパッチでした。
募集していたのがクライアントワーク事業のエンジニア職だったというだけで、当時は「どんな事業形態か」よりも「誰と働くか」という関心のほうが強かったです。
平林(APC):私は、正直にお話しすると、最初は「選べる立場になかった」というのが答えです。前職はピザ屋の店長をしており、未経験でIT業界に飛び込みました。当然、キャリアや現場の選択肢は限られており、たまたま配属されたのがクライアントワークの現場だったんです。
石井(グッドパッチ):それは意外なスタートですね。そこから面白さに気づいたわけですね?
平林(APC):ええ。ネットワーク監視や保守運用の現場で経験を積むうちに、どっぷりとハマっていきました。一つの自社サービスに留まるのではなく、常に新しい技術トレンドや、異なるお客様の課題に触れ続けることができる。「特定の技術に縛られず、可能性が無限にある」という感覚にワクワクしたのを覚えています。
── クライアントワークを通じて「成長した」と実感した瞬間や、印象的なエピソードはありますか?
平林(APC):成長を感じたのは、まさに「火事場の真ん中」に立ってた時ですね。運用の現場では、障害対応は日常茶飯事です。一刻も早い復旧が求められる中、マニュアル通りにやってもうまくいかない、機器を交換しても直らない……そんな極限状態に陥ることもあります。
お客様やメンバーが不安に包まれる中で、正確に原因を切り分け、冷静に復旧へと導けた時。その瞬間に大きな達成感がありました。「自分が提供している価値は、単なる技術知識だけではなく、状況を打開する『問題解決力』なんだ」と強く実感しましたし、ビジネスの最前線で問題を解決できている手応えがありました。
石井(グッドパッチ):「火事場の真ん中」というのは、私も共感します。私の場合、成長を感じる時は、だいたい「大失敗した時」なんですよね。
過去にデザイナーとして、あるUIデザインを担当した時のことです。リリースされ、運用フェーズに入った段階で「改善が極めてしづらいプロダクト」を作ってしまったことに気づきました。
UIデザインにおいては、「将来的にどう仮説検証を回していくか」という設計視点が必要なのですが、そこの理解が甘かったんです。その結果、エンジニアチームから「その部分を変えるなら、根本から作り直さないと無理です」と言わせてしまうほどの、大規模な改修を引き起こしてしまいました。
平林(APC):それは胃が痛くなる経験です……。
石井(グッドパッチ):猛反省して、それ以降はエンジニアリングの仕組み(データベース構造やAPIなど)と、ユーザーインターフェイスをしっかり一致させる設計を徹底するようにしました。
私はもともとエンジニア出身だったので、どこか自分の知識を過信していたのだと思います。その鼻をへし折られ、深く内省したことが、今の自分を作る大きなきっかけになりました。
「技術」と「事業」の最前線へ。今、あえてクライアントワークを選ぶ
── 改めて皆さんが感じる「クライアントワークの魅力」や、今だからこそ推せるポイントを教えてください。
石井(グッドパッチ):最大の魅力は、やはりプロジェクトごとに「関わる組織」や「ドメイン(事業領域)」がガラリと変わる点です。自社サービスだけでは決して出会えない多様なエンドユーザーに対し、良い体験を届けられる面白さがあります。
また、将来的に「自分で事業を作りたい」と考えている方には、特におすすめしたいです。似たようなプロダクトであっても、企業によって「どう事業を成長させるか」という勝ちパターンやアクションプランは全く異なりますから。
── 企業の内部に入り込むからこそ、多様な「成功の型」を肌で学べるんですね。
石井(グッドパッチ):その通りです。事業責任者や経営者の方々と直接議論する機会も多いので、視座の高い考え方に触れられるのも刺激的です。
「あの企業はこうやって事業を伸ばしていたな」という引き出しを自分の中に増やしていく。そうやって獲得した武器を手に、次のキャリアを切り拓いていく。そんな戦略的に経験を積めるのも、クライアントワークならではの特権だと思います。
平林(APC):私が現場でずっと感じてきたのは、「プロになるための成長スピードが圧倒的に速い」ということです。常に新しい技術や課題へのチャレンジがあり、そのドライブ感は他では味わえません。
もちろん、利害の異なる人同士を調整し、ゴールへ向かうのはハードな仕事です。しかし、そこで「自分ごと」として捉え、主体的にビジネスを動かしていく経験は、エンジニアとしての足腰を強烈に鍛えてくれます。振り返ってみると、今の私があるのは、間違いなくこの環境があったからです。「クライアントワークが私を育ててくれた」。胸を張ってそう言えますね。
高橋(APC):私は、「技術以外の課題」にも深く切り込める点が、これからのクライアントワークの真価だと感じています。
インフラエンジニアとして技術力は不可欠ですが、実際にお客様の中に入ると、技術的な課題の裏側に根深い「人や組織の在り方に関わる問題」が潜んでいることに気づきます。部署間の対立、曖昧な意思決定プロセス、複雑な人間関係……といった、人や組織に起因する問題です。
── 技術の問題に見えて、実は組織の問題だった、と。
高橋(APC):ええ。そしてこれは、中の人だけでは解決が難しい。しがらみや利害関係があるからです。そこで、私たちのような「外部の専門家」の出番です。社内の力関係に囚われず、客観的な視点で対話を促し、交通整理をする。そうすることで、結果的にビジネス全体がうまく回り始めます。
技術力に加え、組織を動かすコミュニケーション力や主体性が磨かれる。非常に高度ですが、やりがいは大きいのではないでしょうか。
「クライアントワークは、ただの下請け」という言葉で片付けるには、あまりにも奥が深く、刺激的なフィールドがあります。技術力だけではなく、ビジネスを動かす視点、組織を変える力、そして何より、困難な状況を突破するタフな人間力。それらを最短距離で身につけたいと願うなら、クライアントワークは最高の舞台になると思います。
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※この記事は、Podcast『インフラエンジニアのホントのところ』の内容をもとに再構成しています。
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