同社は金融業界の企業としては珍しく、自社でシステムの開発・運用を行っている。それゆえ、「2025年の崖*」は同社にとっても早急に解決すべき課題であった。この点についてグローバルテクノロジー本部の共同副本部長で、今回のプロジェクトの責任者でもある有働智博氏は「2020年の夏、経営層に向けて開発・運用のコアとなる先端的IT人材の確保や、先進的な環境の整備、技術のモダナイズに取り組むため、専任チームの立ち上げが必要という提案を行いました」と語る。
三井住友トラスト・ホールディングスグループの資産運用会社として、世界11の国・地域の拠点でグローバルにビジネスを展開する日興アセットマネジメント株式会社。開発・運用のコアとなる人材の確保や、先進的な環境の整備、技術のモダナイズに取り組む先端チームを立ち上げ、このプロジェクトの責任者でもあるグローバルテクノロジー本部の有働様とプロジェクトメンバーの皆様から、チーム立ち上げ時に抱えていた課題や、エーピーコミュニケーションズ(以下、APC)のプラットフォームエンジニアリング推進支援サービスを活用した取り組みについてお話を伺いした。
Point
日興アセットマネジメント株式会社
グローバルテクノロジー本部テクノロジーソリューション部 有働 智博 氏
グローバルテクノロジー本部アーキテクト 小田 秀幸氏
グローバルテクノロジー本部アーキテクト Mark Kang氏
グローバルテクノロジー本部インフラストラクチャー部 Bogdan Maliukh氏
日興アセットマネジメントは、三井住友トラスト・ホールディングスグループの資産運用会社として、世界11の国・地域の拠点でグローバルにビジネスを展開しており、2024年3月末現在で36兆円を超える資産を運用している。
同社は金融業界の企業としては珍しく、自社でシステムの開発・運用を行っている。それゆえ、「2025年の崖*」は同社にとっても早急に解決すべき課題であった。この点についてグローバルテクノロジー本部の共同副本部長で、今回のプロジェクトの責任者でもある有働智博氏は「2020年の夏、経営層に向けて開発・運用のコアとなる先端的IT人材の確保や、先進的な環境の整備、技術のモダナイズに取り組むため、専任チームの立ち上げが必要という提案を行いました」と語る。
(※)2018年、我が国の経済産業省は「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~(https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_03.pdf)」を発表した。このレポートでは、既存のシステムが複雑化・ブラックボックス化したことでIT部門はその維持や運用に追われ、DX実現に向けたシステム開発の余裕がなくなり、結果として2025年以降に巨額の経済的損失が発生すると警告。大きな話題を呼んだ。
同社が懸念している課題は、大きく二つあった。一つは、利用している開発技術が陳腐化・断片化しているため、クラウドを活用した革新的なソリューションを実現できていない点。もう一つは、技術の陳腐化が進むことで、優秀な技術者を確保することがこれまで以上に困難になる点だ。
これらの課題を解決するため同社は、開発にクラウドネイティブの考え方を取り入れるとともに、コンテナオーケストレーションなどの新しい技術や、DevSecOps*の概念を積極的に導入していく方針を決定。これにより、システムの維持や運用にかかる負担を極小化し、ビジネス価値の最大化を図ることにした。今回のプロジェクトにおいてプロジェクトマネージャーを務めた小田秀幸氏はそのねらいについて、「DevSecOpsの導入により、技術者の担当領域を越えたクロスファンクショナルな連携を実現するとともに、補助的な作業は自動化・無人化して技術者のモチベーションを高め、さらにセキュリティも強化することを目指しました」と説明する。
(※)DevSecOpsは計画から開発、運用までのサイクルを迅速かつ継続的に行うDevOpsという概念に、セキュリティを組み込んだソフトウェア開発手法。
日興アセットマネジメントは次期アプリケーションの実行基盤について、社内の技術者のスキルセットやシステム資産などを包括的に考慮した上で、Microsoftの「Azure Kubernetes Service(AKS)」を選定。これに伴い、コンテナを使ったアプリケーションの開発スキルを高めるためのトレーニングを実施することにした。
そこで同社はトレーニングの提供元を検討していたところ、MicrosoftよりAPCの紹介を受け、3ヶ月間のチーム型学習コンテンツ「クラウドネイティブ実践プログラム」を採用することにした。
ハンズオンが中心となるこのプログラムは、日々の業務をこなしながら課題に取り組むためハードな部分もあるが、受講者が主体的に学ぶことができたのが良かったという。
受講したMark Kang氏は「私は普段、アプリケーションを開発しており、クラウドネイティブ開発の経験はありませんでした。プログラムの内容は難しくやることも多くありましたが、1スプリント(1~2週間単位)ごとに提供される資料は十二分な内容で、技術的にも深いところまで学ぶことができました」と当時を振り返る。
(※)クラウドネイティブ実践プログラム…毎週のMeetingとスプリント内をさらにハンズオン/回答確認のフェーズに分割。Microsoft Azure環境を受講者に自由に開放し、弊社サポートのもとハンズオンを実施。受講者各位がそれぞれの業務にあわせて自由な時間に課題に取組み、Issue形式で講師がサポートを行う。
「実際にAzure上でAKSを使うという体験ができましたし、クラウドネイティブを取り入れることによって、当社がいま抱えている課題を解決できるという手応えを得ることもできました。また、プロジェクトに参加してもらう技術者像が明確になったことも大きいです。先進の技術や今後のキャリアに強い思いを持つコアメンバーが中心となって取り組まなければならないということを、改めて確信しました」(有働氏)
その後、同社ではGartnerが発表する戦略的テクノロジーとして、「Platform Engineering」に注目を置いた。同社が抱える人材不足の課題や、クラウドネイティブな技術スタックを開発チームにうまく活用してもらうためのアプローチとして最適と考えたためだ。有働氏らは、このPlatform Engineeringを推進するプロジェクトの必要性を経営層に理解してもらう努力を続け、時間がかかったものの、予算を得ることができた。
Platform Engineeringを推進するには、開発、運用、SRE、Kubernetesの管理等の多方面でのスキルをカバーしなくてはいけないため、当初は参加するメンバーの選定に苦労したが、インフラストラクチャー部のエンジニアであるBogdan Maliukh氏が手を挙げてくれた。
「クラウドネイティブについては私も全くの白紙状態で、先のプログラムにも参加していませんでしたが、受講したMarkからナレッジトランスファーを受けられますし、なにより自分自身が技術的に成長したいという思いが強かったので、プロジェクトへの参加を希望しました」(Bogdan氏)
「先進技術の取得に貪欲な者でなければメンバーは務まりませんので、Bogdanが立候補してくれなければ、ひょっとするとこのプロジェクトは始まらなかったかもしれません。彼にインフラ領域を任せることができれば、アプリケーション領域はMarkがカバーしてくれますから、プロジェクトを先に進めることが可能と判断しました」(有働氏)
かくして2023年7月、6名のメンバーによるプロジェクトチームが立ち上がる。トレーニング受講を通じて高い技術力を実感できたAPCにも引き続き支援を依頼、2つの取り組みを実施した。一つは「DevSecOpsアセスメント」。金融向けのDevSecOpsを推進、23のアセスメント項目について詳細をヒアリングのうえ、5段階のスコアリングで優先度の選定を行い、実際の改善を進めるというものだ。
もう一つが「開発者ポータル立ち上げ支援」。同社はAPCの提案を受けて開発者向けポータル「Backstage」の導入を採用したが、その利用については初心者であったため、作業テンプレートの作成や技術的な課題解決について支援を受けるというもの。
協議した優先度をベースに、金融系でも利用可能なセキュリティを考慮し、構築されたBackstage上に必要なKubernetesのインフラやツールをテンプレートとして導入し、セルフサービス化によるスムーズな利用を推進した。
「アセスメントによって自分たちでは気づくことの出来なかった課題も可視化することができました。APCのサポートは伴走型で小回りが利く上に、さまざまな相談にも柔軟に応じてくれるので、おかげでプロジェクトは順調に進んでおり、とても感謝しています。引き続きAPCと取り組みを続け、モダンな開発環境を実現したいと思っています。」(有働氏)
日興アセットマネジメントは今後、2024年度中に業務アプリケーションをAKS上で開発し、本番として稼働することを目標としている。とはいえ、それが最終ゴールではない。
「今回のプロジェクトはクラウドネイティブ開発プラットフォームの構築を目指してスタートしましたが、ビジネスニーズへの俊敏な対応やクラウド技術の積極的利活用、DevSecOpsといった取り組みだけでなく、今後はそれらを実現するための組織づくりを含め、Platform Engineeringの推進を目指していきたいと思います」(小田氏)
「その意味ではまだ道半ばです。ただ、今回のプロジェクトに参加した技術者は、今後のPlatform Engineeringの推進において中心メンバーとして活躍するのは間違いありません。彼らを含め、社内の技術者のさらなるスキルアップという観点からも、APCのさらなる支援を期待しています」(有働氏)
日興アセットマネジメント株式会社
所在地:東京都港区赤坂9-7-1 ミッドタウン・タワー
日興アセットマネジメントは、日本そしてアジアを代表する資産運用会社です。株式、債券、オルタナティブ、マルチアセットなど多様な資産クラスを対象とするアクティブ運用やETF(上場投資信託)を含むパッシブ運用など、革新的な投資ソリューションを提供しています。
日興アセットマネジメントは60年を超える実績を誇ります。約30の国・地域から集まる人材は多様性に富み、約200名*の運用プロフェッショナルが約36.3兆円**の資産を運用しています。世界11カ国・地域***において事業を展開し、グローバルな視点を活かしてお客様のニーズにお応えする様々な商品を開発するとともに、優れた運用パフォーマンスの実現を追求しています。銀行などの金融機関、証券会社、生命保険・損害保険、ファイナンシャルアドバイザーなど、国内外の計400社超の販売ネットワークを通じ、個人投資家の皆様や年金基金や金融機関など世界中の機関投資家のお客様に対して幅広いサービスを提供しています。
* 日興アセットマネジメント株式会社および連結子会社の社員を含む。
** 日興アセットマネジメント株式会社および海外子会社の連結運用資産残高(投資助言を含む)の2024年3月末現在のデータ。
*** 日興アセットマネジメント株式会社、海外子会社および関連会社を含む。
https://www.nikkoam.com
インタビュー実施日:2024年7月24日